日本の遺言と相続、終活の前に知っておきたいこと
遺言の方式、法定相続分、遺留分、相続放棄まで。民法にもとづいて、落ち着いて準備するための一般的な手引きです。
はじめに
大切な人を残していく準備は、急ぐものではありません。ここでは、日本の民法にもとづいて、遺言と相続のしくみを落ち着いて見ていきます。これは一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の事情については、弁護士・司法書士・公証人にご相談ください。
遺言にはどんな方式があるか
日本の民法では、ふだん使われる遺言として、おもに三つの方式が定められています。
自筆証書遺言(民法968条): 遺言者がその全文、日付、氏名を自分の手で書き、押印して作ります。2019年の改正により、添付する相続財産の目録(財産目録)については、パソコンで作成したものや通帳の写しなどを使ってもよくなりました。ただし、その目録の各ページには署名と押印が必要です。
公正証書遺言(民法969条): 証人2人以上の立会いのもと、公証人が遺言者の口述を筆記して作成します。原本は公証役場で保管され、方式の不備で無効になりにくいのが特徴です。
秘密証書遺言(民法970条): 内容を秘密にしたまま、その存在だけを公証人と証人2人以上の前で証明してもらう方式です。実務での利用は多くありません。
法務局による自筆証書遺言書保管制度
2020年7月10日に始まった制度で、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けられます。紛失や改ざんを防げるうえ、この制度を使った遺言は家庭裁判所の検認が不要になります。手元保管にともなう不安をやわらげる選択肢です。
だれが相続人になるか(相続人の順位)
民法は相続人の範囲と順位を定めています。
配偶者は常に相続人になります(民法890条)。
第1順位は子です(民法887条)。子がすでに亡くなっている場合は、その子(孫)が代襲相続します。
第2順位は直系尊属(父母や祖父母)です(民法889条)。子やその代襲相続人がいないときに相続人になります。
第3順位は兄弟姉妹です(民法889条)。子も直系尊属もいないときに相続人になります。
法定相続分(民法900条)
遺言がない場合の取り分の目安です。
配偶者と子が相続人のとき: 配偶者2分の1、子2分の1(子が複数なら均等に分けます)。
配偶者と直系尊属が相続人のとき: 配偶者3分の2、直系尊属3分の1。
配偶者と兄弟姉妹が相続人のとき: 配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1。
遺言があれば、この割合とは異なる分け方を指定できます。
遺留分(民法1042条以降)
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障される取り分です。
相続人が直系尊属のみのときは、財産の3分の1。
それ以外のときは、財産の2分の1。
兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺言や贈与によって遺留分を侵害された相続人は、侵害された額に相当するお金の支払いを求める遺留分侵害額請求ができます。遺言を書くときは、この遺留分に配慮しておくと、後の争いを避けやすくなります。
遺言執行者(民法1006条)
遺言で、遺言執行者を1人または数人指定できます。第三者に指定を委ねることもできます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを進める役割を担います。指定がない場合は、必要に応じて家庭裁判所に選任を求めることになります。
相続放棄・限定承認(民法915条)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続をそのまま受ける(単純承認)か、放棄するか、限定承認するかを選びます。借金などの負債が多い場合は、家庭裁判所への申述によって相続放棄や限定承認を検討します。期間内に判断が難しいときは、家庭裁判所に期間の伸長を求めることもできます。
相続税の基礎(国税庁)
相続税には基礎控除があり、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。たとえば法定相続人が3人なら4,800万円です。遺産の総額がこの基礎控除の範囲におさまるなら、原則として相続税はかかりません。具体的な計算や申告の要否は、国税庁の情報や税理士にご確認ください。
デジタル遺産・デジタル遺品
ネット銀行・証券の口座、暗号資産、写真や各種アカウントといったデジタルの資産には、専用の法律はありません。財産的な価値があるものは、相続財産の一部として扱われます。実務上は、次のような備えが役立ちます。
IDやアカウントの一覧を作り、信頼できる人がたどれるようにしておく。
パスワードそのものは遺言に書かず、保管場所の手がかりだけを残す。
各サービスの追悼アカウントや解約の手続き方法を確認しておく。
リビングウィル(尊厳死宣言)
回復の見込みがなく死期が迫ったときに、延命措置を望まない意思を示すのがリビングウィル(尊厳死宣言)です。公証役場で尊厳死宣言公正証書として残すことができます。ただしこれは法律で定められた制度ではなく、法的な拘束力はありません。それでも、本人の明確な意思として医療の現場で尊重される手がかりになります。
実践チェックリスト
どの遺言の方式が自分に合うかを考える(迷うなら公正証書遺言が安心です)。
相続人と、おおよその法定相続分を把握する。
遺留分に配慮した内容にする。
遺言執行者を決めておく。
自筆で書くなら、法務局の保管制度を検討する。
財産(不動産・預貯金・デジタル資産)の一覧を作る。
相続税の基礎控除の範囲かどうか、おおまかに確認する。
必要に応じて尊厳死宣言を検討する。
弁護士・司法書士・公証人・税理士など、専門家に相談する。
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この記事は一般的な情報であり、法的助言ではありません。遺言や相続の具体的な手続きについては、弁護士・司法書士・公証人にご相談ください。
よくある質問
自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらがよいですか。
手軽に始めたいなら自筆証書遺言、方式の不備で無効になる不安を避けたいなら公正証書遺言が向いています。自筆で書く場合は、法務局の保管制度の利用も検討してください。
兄弟姉妹にも遺留分はありますか。
ありません。遺留分が認められるのは配偶者、子(直系卑属)、直系尊属で、兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺言で法定相続分と違う分け方をしてもよいですか。
できます。ただし遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求を受けることがあります。遺言を書くときは遺留分に配慮しておくと安心です。
相続放棄はいつまでにすればよいですか。
自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述します。判断が難しいときは期間の伸長を求められます。
デジタルの口座やアカウントはどうなりますか。
専用の法律はありませんが、財産的価値があるものは相続財産として扱われます。IDの一覧を作り、たどれるようにしておくと手続きが進めやすくなります。
相続税は必ずかかりますか。
いいえ。「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除の範囲におさまれば、原則としてかかりません。詳しくは国税庁の情報や税理士にご確認ください。